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はじめに

「また、自分だけ知らなかった」

Slackのチャンネルに流れてきた意思決定の告知を見て、そう感じたことはないでしょうか。
仕様変更、新機能の方向性、チームの優先度の見直しなど気づいたときには「すでに決まっていたこと」として降ってくる。会議に参加していても、なぜかリアルな議論の温度感が伝わってこない。懸命に実装をこなしているのに、自分だけが”周回遅れ”になっているような、あの妙な孤独感。

沖縄のITエンジニアはフルリモートという選択肢をとることができますが、このような状況になっていることをよくお伺いします。
これは、ご自身のスキルが足りないせいでも、努力が足りないせいでもありません。「フルリモート × 物理的な距離」という構造が生み出す、避けがたい壁があるのです。転職相談でこういったお話しはよく受けます。

この記事では、実際に沖縄からフルリモートで働くエンジニアのインタビューを通じてその壁の正体を正直に言語化したうえで、距離を逆手に取るための具体的な戦略をお伝えします。「フルリモートでありながら、意思決定に関わるエンジニアになる。」その道筋を、一緒に考えていきましょう。

 

フルリモートエンジニアの生存戦略――沖縄から東京水準で働く”存在感”のつくり方

「結果を出せば評価される」は幻想だった。フルリモート1年目に”空気”と言われた経験から始まった、生き残りのための戦略とは。

今回お話を聞いたITエンジニア 荷川取さんのキャリア紹介

荷川取さんは、医療・介護の現場からWebエンジニアへと転身した、異色のキャリアを持つ20代のエンジニアです。

新卒では神奈川県の病院にてリハビリテーション職として勤務。急性期から転院してきた患者を3〜6ヶ月にわたってマンツーマンでサポートし、退院後の生活を見据えた環境調整や地域機関との連携まで担っていました。「患者さんに目標を立て、段階的に回復を支援する」というこの経験が、後のキャリア観の土台になっています。

その後、ITエンジニアへの転身を決意。2021年からWeb制作・SES事業の企業でHTML/CSS/JavaScriptによるWeb制作を経験し、2023年からは株式会社EISHINにてWebエンジニアとして本格的なプロダクト開発に従事しています。

現在のメインプロジェクトは、採用プラットフォームの求人機能開発。バックエンドを中心に、TypeScript / Node.js / Hono / PostgreSQLといったモダンな技術スタックを使いこなしながら、求人・労働時間制度のドメイン分析からDB設計、法令調査、FigJamを活用した意思決定の可視化まで幅広く担っています。

特筆すべきは、「実装者」にとどまらない動き方です。議論が停滞した場面では、問題の背景・選択肢・判断軸を整理し、社労士を巻き込んだ意思決定を実現しています。エラーハンドリングの統一基盤を整備してチーム全体の開発体験を向上させるなど、チームの生産性と品質を引き上げる動きを自ら率先して行ってきました。

また、生成AI(ClaudeCode / Devin)の活用にも積極的で、定型作業の自動化や並行作業の実現にとどまらず、AI活用ノウハウをPRでチームへ共有し、チーム全体の開発効率向上に貢献しています。

キャリアビジョンは、テックリードとしてサービス開発を主導できる人材になること。技術の専門性とビジネスの視点の両方を磨きながら、ユーザーファーストな判断でプロダクトの成功に貢献することを目指しています。

そんな荷川取さんが、沖縄でのフルリモート勤務という環境の中で、どのように「存在感」と「評価」を勝ち取ってきたのか。以下のインタビューで、そのリアルな戦略を語ってもらいました。


「同じ結果を出しても、出社組と同じではない」

――フルリモートで働くうえで、まず何に気づきましたか?

最初は「ちゃんと結果を出していれば評価される」と思っていたんです。でも、出社している人たちって、業務と関係ない雑談から自然とコミュニケーションが生まれていて、接触回数が増えている。オンラインとオフラインって、そこが全然違う。

同じアウトプットを出したとしても、対面で日常的にやり取りしている人との信頼関係は、やっぱり違う。だから、リモートで同じ結果を出すだけでは「同じ」じゃない。むしろ不利な状態からのスタートだと思うようになりました。

 

存在感”を意図的につくる

――では、どうやって存在感を出していったんでしょうか?

Slackでの発言回数を意識して増やすようにしました。ただ、無駄な発言を乱発してもしょうがない。バランスが大事で、たとえばミーティングでは「ただ参加する」のではなく「自分が主催しているくらいの気持ち」で臨む。そうすると、事前に発言内容を用意するようになるし、自然と発言が増えていく。
特に力を入れているのが、作業の過程をテキストでつぶやくことです。

 

――具体的にはどんなことをつぶやくんですか?

何か調べたとき、どうやって調べてどう理解したか、その思考の過程をSlackに書く。結果だけ出して頭の中で完結させるのではなく、あえてその過程を外に出すんです。それだけで「この人はこういうことを考えているんだ」と周りにわかってもらえる。

 

――どれくらいの時間をそこに使っていますか?

体感で、仕事時間の3割くらいは使っているかもしれないです。傍から見たら非効率に思えるかもしれないけど、それくらい重要だと思っています。
実際、そのつぶやきを見て向こうからアクションを取ってきてくれる人が出てきたり、Slackでのコミュニケーション全体がスムーズになったりした。何も発言していない状態だと、重要な場面で手を挙げることもできない。でも、日常的に発信していると、いざというとき自然と動ける。そのマインドになっていくんです。

 

「手を挙げる」ことが次の仕事をつくる

――存在感を出す以外に、意識していたことはありますか?

ボールが落ちているのを見つけたとき、拾いにいくことです。担当が決まっていなくて誰もやっていないことでも、「これはやった方がいい」と思ったら手を挙げる。

たとえば、あるプロジェクトで担当者がいない業務が発生したとき、そこに自分で入っていって、判断材料を整理して、上の人に「こういうパターンがあります、こちらで進めるのはどうですか」と提案する形で進めていきました。

――ただ、リモートだと巻き込むのもハードルが高くないですか?

確かに難しいですね。でも、困っていることをつぶやいて「誰か教えてもらえませんか?」と出す。それだけで助けてくれる人は出てきた。チームの雰囲気にもよると思いますが、助けを求めることを怖がらずに発信することが大事だと思います。
手を挙げたことで「ありがとう」と言ってもらえて、今度は向こうから仕事をもらえるようになる。その積み重ねが信頼になっていく。

 

FigJamで「思考の過程」を可視化する

――ミーティングの場以外でも、可視化の工夫をしていると聞きました。

設計の議論でFigJamを使うようにしました。たとえばデータベース設計で方針が決まっていないとき、ER図をFigJamに起こして、みんながコメントできる状態にしておく。コメントをもらったら最新版に更新して、古いバージョンはそのまま残しておく。
そうすると「最初はこのパターンで議論していて、こういうコメントがあって、こう変わっていった」という経緯が全部残る。ドキュメントに結論だけ書くのとは違って、議論の過程が追えるのが大きい。

――なぜドキュメントではなくFigJamを選んだんですか?

単純に、図の方が議論しやすいし、過去の経緯も追いやすい。あと正直、ドキュメントを書くのがあまり得意じゃないので(笑)。自分がやりやすいツールがFigJamだったということもあります。

 

「目標」がないと、ボールの拾い方もわからない

――今お話しいただいた戦略は、どこから生まれたんでしょうか?

上司に「空気になってる」と言われたことがきっかけです。入社して1ヶ月くらいの頃で、結果は出していたつもりだったけど、それだけじゃ評価されないんだとわかった。そこから、どう存在感を出すかを意識するようになりました。
ただ、どのボールを拾うかは目標があってこそだと思っています。目標がないと、何でも手を挙げることになってしまう。でも目標に沿って動いていると、自然と「これは拾うべきだ」と判断できるようになる。

――その「目標を持つ」という考え方は、どこで身についたんですか?

前職のリハビリテーション職からだと思います。患者さんが退院後の生活に戻るために、目標を立てて段階的にリハビリを進めていく。それって、キャリアの考え方とすごく似ている。患者さんに対してやっていたことを、今度は自分自身に当てはめるようになった。気づかせてくれたのは、今の上司ですが。
目標があると、行動の選択が明確になる。フルリモートの立ち回りも、「どう評価されたいか」を意識することで初めて決まってくると思います。

 

AIで仕事はどう変わったか

――AIの活用についても教えてください。

体感で、自分が手を動かす作業は7〜8割くらい減った気がします。今の自分の仕事は、AIと会話しながら設計を考えて判断すること。実装はAIが提案してくれて、手直しがあれば少し触れる、くらいになっています。

仕事自体がだいぶ変わりましたね。ただ、AIは同じプロンプトを入れても違う回答が返ってきたりするので、どれだけ出力を安定させるかが大事になる。ルールやガードレールを整備してあげることに、今は一番注力しています。

あとリモートで気をつけているのが、チームの会話の中にある暗黙知をテキスト化しておくこと。ミーティングで出た内容や結論をSlackに書き起こしておく習慣を持っている人がいて、それはすごく大事だと感じています。

それでも沖縄を選ぶ理由

――リモートの大変さをお話しいただきましたが、それでもフルリモートを選ぶのはなぜですか?

一番は、場所を選ばず働けること。沖縄の給与水準ではなく、東京水準の給与で働けるというのが大きいです。
もし沖縄に同じ給与・同じ仕事内容の会社があれば、そちらに行くかもしれない。でも現状ではないので、フルリモートという選択肢がある。それなら、自分が暮らしたい場所で働きたい。

――なぜ沖縄に戻ったんですか?

もともと沖縄出身で、東京で働いていた時期に戻りたいと思うようになりました。東京は刺激があって好きなんですが、落ち着けない。長く暮らすなら沖縄がいい。仕事のレベルを落としたいわけじゃなくて、生活の場所を選んでいる、という感じです。
フルリモートの大変さはわかった上で、それでも沖縄にいる。そこは切り離して考えています。

「空気」と言われた経験を出発点に、発言・可視化・手挙げの積み重ねで存在感をつくってきた荷川取さん。フルリモートは「結果を出せば認められる」場所ではなく、「意図的に見せていく」ことが問われる環境だと仰っておりました。沖縄からその戦略を実践し続ける彼の話は、リモートワークの本質的な難しさと、それを乗り越えるためのヒントがありました。

<後半に続く>

玉城 良樹 Tamashiro Yoshiki
コンサルタント
沖縄県糸満市生まれ。県内大学卒業後、中国へ(北京外語大学→西安交通大学)帰国後は東京で就職。IT企業にて営業職として従事。沖縄へUターン後、ベンチャー企業を経て、株式会社レキサンへ入社。現在はIT企業専門担当として活躍中。インドア派だが、たまに自然豊かな場所へ行きエネルギーチャージしている。

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